羅生門・鼻 (新潮文庫)

羅生門・鼻 (新潮文庫)

高校時代、教科書で読んだ「羅生門」にいたく感銘を受けたので手に取ってみる。表題作以外も面白くなかったわけではないけれど、やっぱり、有名なお話にはそれだけの理由があるなあと思いました。「羅生門」の結びの一文について、発表後に書き直されたというのは有名なところですが、これ、何というか、ぞっとしますよね。彼はどうして、そこまで人間を追及し、突き詰めなければいけなかったのか。そうして、「ぼんやりとした不安」について思いを馳せる。彼の感じたそれは、焦燥感のようなものだったんだろうか。何にしても、不安というのは、理想のないところには生まれないよなあと思う。
…それにしても、邪宗門には驚いた。まさかの未完オチ(未完作品があるのは知っていたけれど、タイトルまでは把握していなかった)。それならそうと冒頭にでも注意書き書いとけよと、こっちもそのつもりで読み進めるからと、こう思った人が他にもいるに違いないよ。



ララピポ

ララピポ

タイトルにうん?と思い、奥田さんの作品でもあるということで。ものすごくインパクトのある作品でしたが、同時に、これだけ内容の残らないモンもめずらしいなと。「爆笑小説」といううたい文句なんだから、それもまーアリはアリでしょうが。しかしこれ、どんな人が読めば「爆笑」という事態になるのか甚だ疑問なんですけれども。社会の最底辺に位置する社会生活不適応者たちの生活を、オムニバス形式で、帯にある言葉を借りれば「お下劣」に描いた作品なんですが、社会の最上部かそこらを自負していらっしゃる方や「紳士淑女のみなさま」がこれを読めば、顔をしかめて終わりでしょう。まー平均かなーと思ってる方は、語られる世界に圧倒され、少なからず不快感を感じると思います。そうして、最低辺にこの作品に描かれているような人が存在するとして、その方たちなら腹が立つんじゃないだろーか…。ということで、どなたが読んでも気分の良いものではないだろう、という結論。別に、悪い作品だとは思わないけど。簡単に読めるし、(まったく笑えはしないが)話の組み方とかそれぞれのつながり・結末はおもしろいので。でもなあ…。う〜〜〜〜ん。
とりあえず言えることは、無駄に下品でエロくてグロイので、奥田さんの作品が好きな方でも、この作品を読むことは少し考えたほうがいいかも知れません。たぶん、女性と男性で感想が大きく変わってくるだろう作品。
前々から気になっている「パコと魔法の絵本」(観に行く予定)の中島さん脚本で映画化されるみたいでわたしはちょっとショックです。上手く言えないけど、ああこの本映画化されるんだあ…と、しかも脚本はわたしが楽しみにしている映画の監督さんが手がけるんだあ…と、なんかこう、ガクッとくる。



チルドレン

チルドレン

初めての伊坂さん作品。「短編集のふりをした長編小説」だそうです。第一章(とでもいえばいいのか)「バンク」は、仕掛けが陳腐すぎて、5ページ読んだところでタネがわかってしまいますが(しかも展開も独りよがりで、大丈夫か?と不安になった)、その後良い意味で裏切られました。出来の良いドラマを観ているような感覚で、さらりと読むことができます。「著者が愛情を込めて描いています」、「陣内(語り手にこそならないけれど、ストーリーに一貫して登場する、実際の主役…というかヒーロー?)って変人でしょう、すごくいいでしょう!」というのがひしひしと伝わってくるのもまた好印象。個人的には、陣内をカッコ良いとは思いませんが。思わせぶりに「短編集のふりをした長編小説」なんて銘打つから期待しすぎてしまった感はあるかな。すべての事件をつなぐ1本の糸はいつ明らかになるんだろう、これは付箋?この人がキーパーソン?とワクワク読んでいたので、あ、別にそういうわけではないのね、と。逆に言うと、深読みは禁物・それぞれのお話はそれぞれ語り手の体験、と最初から割り切って読めば、不満なく楽しめますよということ。さわやかな娯楽作品です。なので、現実味とか奥深さ、感動を求めるなら他をどうぞ。